麻酔科・手術室
診療内容のご紹介
麻酔科の医師は、手術を受ける患者さんの術前評価を行い、手術中は、患者さんの傍で、血圧、心電図、体温、呼吸の状態などを管理しています。
そして、点滴や、出血に対する輸血、心臓の動きを良くする薬、血圧を上げる薬などの投与を行い、人工呼吸なども行っています。 このように麻酔科医は、手術室の他のスタッフと協力して、患者さんの安全を第一に、手術がスムースに行われるように努力しています。
麻酔の歴史
麻酔は抗生物質、消毒薬などと並び、現代医学の偉大な発見の一つとされています。世界ではじめて全身麻酔を行ったのは、本邦の江戸時代の医師「華岡青洲」と言われています。 青洲が麻酔を行う前までは、患者さんを押さえつけて痛みを我慢させて手術を行っていました。
青洲は世界ではじめて「通仙散」という麻酔薬を用いて全身麻酔を行い、麻酔された患者さんは眠っているうちに手術を受けることができました。しかし、青洲は麻酔の危険性の面から、自分の下で十分に修行を積んだ者にしか麻酔薬の作り方を教えず、青洲の麻酔は世間に浸透しませんでした。その後、欧米などで様々な麻酔薬が開発されましたが、安全性に問題がありました。
しかし、現在では副作用が少なく、麻酔を終了すればすぐに覚醒できる麻酔薬が開発されてきました。また、モニターの開発が進み、重要な生体情報がリアルタイムで得られる機器を用いた麻酔管理が可能となりました。
麻酔の種類
全身麻酔
患者さんに眠っていただく麻酔です。麻酔薬を脳に作用させて、意識、痛みをなくします。合併症としては、気管にチューブを入れる操作の際や患者さんが無意識のうちに歯を食いしばるために稀に歯が折れたりすることがあります。また、手術後は声がかすれたり、のどの痛みを感じることがありますが、通常は2〜3日間で軽快します。しかし、気管挿管操作や手術の影響で、声を出す声帯の動きが悪くなり、声が出にくくなったり、物が飲み込みにくくなることもあります。この場合は、軽快するまでに時間がかかることがあります。
硬膜外麻酔
下半身麻酔の一種です。脊椎の中の脊髄の傍にある硬膜外腔と呼ばれる部分に局所麻酔薬を注入し、脊髄から出てきた神経を麻酔し、痛みをとる方法です。硬膜外麻酔は、硬膜外腔に細いカテーテルを留置し、長期間にわたって局所麻酔薬を注入できます。よって、長時間の手術でも可能ですし、手術後の鎮痛にも使用されます。(手術後の鎮痛-腹部の手術などでは手術が終わり、全身麻酔から覚醒すると急に痛みが出てきます。硬膜外麻酔用のカテーテルから局所麻酔薬投与し、麻酔から覚めても傷の痛みを最小限にすることが可能です。)合併症として、稀に脊髄の神経の損傷をきたすことがあります。また、血液が固まるのを予防する薬を飲んでいる場合は、硬膜外カテーテルにより脊髄の周囲に血腫できやすく麻痺が生じる危険性があるため、この処置ができない場合があります。
脊椎麻酔(脊髄くも膜下麻酔)
下半身麻酔の主な方法で、腰椎麻酔とも呼ばれる麻酔法です。下半身の知覚が麻痺して痛みや冷たい感覚がなくなります。ちょうど正座をしていて足がしびれてくるような感覚になります。同時に足が動かなくなります。下腹部や足などの手術の時に行い、意識は保たれますが、希望があれば、鎮静薬を投与し、軽く眠れるようにできます。合併症としては特に麻酔直後には、血圧が低くなったり、脈拍が遅くなることもあります。また、手術後に悪心、嘔吐や頭痛を起こすことが稀にあります。多くの場合は安静にしていれば軽快しますが、処置が必要な場合もあります。稀な合併症ですが、穿刺時に脊髄神経の損傷の危険性があります。血液が固まるのを予防する薬を飲んでいる場合は脊髄の周囲に血腫できやすく麻痺が生じる危険性があるため、この処置ができない場合があります。
局所麻酔
手術をする場所に局所麻酔薬を注射し、麻酔薬が末梢神経の一部分に作用します。局所麻酔の患者さんの手術でも、手術前の状態が良くない場合は、麻酔科医が手術に立ち会うこともあります。
麻酔の流れ
手術前(麻酔前)
1.麻酔に必要な各種の検査
各種の血液検査、心電図検査、レントゲン検査等を受けていただきます。
2.術前訪問
手術当日までに麻酔を担当する医師が病室を訪れ、診察と問診を行い、具体的な麻酔の方法を説明させていただきます。なお、お子様が手術や検査を受けられる場合は、麻酔担当医の診察時のどちらかに、保護者の方が同伴してください。
諸注意
- 麻酔は、患者さんの体調が良い時に行います。体調が悪い時は延期となることもあります。
- タバコを吸われる方は、直ちに禁煙してください。喫煙者は、手術後に肺や気管支の炎症を起こし、手術後に肺炎などの呼吸器の合併症を起こすことが多くなります。
- 手術の前の一定時間、何も飲み食いできません。麻酔が安全におこなわれるためには、胃の中を空っぽにしておき、誤嚥を予防することが重要です。間違って指示以外のものを口にされた場合は、そのことを医師や看護師に申告してください。手術が中止または延期となることがあります。
- 手術室には、原則として、コンタクトレンズ、指輪、ネックレスなどは外して、また、化粧やマニキュアを落として、入室していただきます。
手術中 (麻酔中)
手術室に入って頂き、心電図の電極をつけたり、血圧計を巻いたりした後、麻酔科医師が薬を投与し、麻酔開始となります。全身麻酔の場合、意識が無くなり、目が覚めれば手術は終わっています。手術が終わって、全身の状態が落ち着いたことを確認後、病室に帰ります。ただし、手術後の身体の状態によっては、麻酔から未覚醒のままで引き続いて人工呼吸を行うこともあります。
手術後(麻酔後)
術後、麻酔科医が患者さんの状態をみるために訪問します。訪問時、改善点などがあればお教えください。
麻酔中の主な合併症(偶発症)
- 気管挿管に伴うもの:咽頭痛、嗄声、歯牙損傷、喉頭浮腫、喉頭痙攣、挿管困難など
- 呼吸器系:無気肺、肺炎、肺水腫、気胸、肺塞栓、肺出血など
- 循環器系:高血圧、低血圧、頻脈、徐脈、不整脈、心筋梗塞・虚血、心停止など
- 神経系:脳血管障害(脳出血、脳梗塞、脳塞栓)、痙攣、覚醒遅延、せん妄、末梢神経損傷など
- 消化器系:肝機能障害、悪心・嘔吐、しゃっくりなど
- 腎:腎機能障害、急性腎不全など
- その他:アレルギー性ショック、術中覚醒、ふるえ、体温上昇(悪性高熱)など
- 局所麻酔に伴うもの:低血圧、徐脈、悪心・嘔吐、呼吸抑制、神経損傷、局麻薬中毒、脊椎麻酔後頭痛、アレルギー性ショックなど
手術や麻酔の進行に伴う重篤な合併症(偶発症)として、ショック、不整脈、心筋梗塞、悪性高熱、肺水腫、気管支痙攣、肺出血、肺水腫、肺塞栓や梗塞、脳出血、脳梗塞、神経麻痺などが発生する可能性があります。残念ながら麻酔は100%安全であるという保証はありません。
10万人に約1名は麻酔管理が原因で死亡されています。しかし、麻酔科医は、これらの合併症を防ぐために、発生の危険性の高い患者さんに対しては手術の前から予防策を講じ、患者さんの状態に合わせた麻酔管理をおこなっております。
医師のご紹介
麻酔科 医長村上 亜紀子(むらかみ あきこ)
医学博士 [佐賀医科大学 2002年(平成14年)卒]
- 日本専門医機構麻酔科専門医
- 麻酔科標榜医